セット内容
・イチジク・ロンドボルドーの穂木
・根が観察できる透明ポット
・発根に最適な鹿沼土
・これまでの経験をもとに作成した説明書

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穂木の準備
① カット
穂木の下部をナイフなどで両側から斜め45度を目安にカットします。
(12/15お届け分以降、表面をカットしてお届けする形に変更しています。その場合は、裏面を薄く削いでください)
オレンジ色のコーティングがしてある面が上部です。反対側をカットしてください。
※角度は厳密でなくても構いません。断面を綺麗に切ることが最優先です。
【なぜ斜めに切るのか?】斜めにカットすることで断面積が広がり、水の通り道である「道管」が大きく露出するため、吸水効率が格段に良くなります。
また、植物は傷口を修復しようと「カルス」(人間でいうカサブタのような組織)を形成します。このカルスが発根の土台となるため、切断面を広く確保することは発根促進に直結します。
カルスとは?植物に傷ができたときに、その傷口に発生する癒傷組織です。
傷を修復する組織といえば、カサブタと似ていますが、植物のカルスは樹皮を再生するのみならず、必要な組織を再生することができます。
動物のカサブタ(瘢痕組織): 主に傷口をふさぐことが目的で、そこから手や足が新しく生えてくることはありません。
植物のカルス(未分化細胞塊):傷口を保護した後、「分化全能性(ぶんかぜんのうせい)」という能力を発揮します。これは、状況に応じて「何にでもなれる」という能力です。
挿し木であれば、切った枝には根が無いので、やがて枯れてしまいます。それを回避するために、カルスは根に変化します。また、根から吸収した水分を運ぶ道管、葉で作り出した光合成産物を運ぶ師管などを再生することもできます。
なぜ根や道管になれるのか?
植物の細胞は、一度「葉」や「茎」になった後でも、傷ついたりホルモンバランスが変わったりすると、その役割をリセットして「脱分化(だつぶんか)」することができます。
- 初期段階: 傷口を守るために、柔らかい細胞の塊(カルス)を作ります。
- 再分化: 生き残るために必要な器官へ変化します。
- 水分がない! → 「根」を作って水を吸おうとする。
- 水が通れない! → 「道管」をつなげて水を運ぼうとする。
- 栄養が通れない! → 「師管」をつなげて栄養を運ぼうとする。


こちら側を薄く削いでください。

手を切らないように注意

② 芽の調整
穂木の下部にある芽を取り除き、上から1~2つ程度の芽を残します。
(土に埋まる部分の芽は手で優しく取り除いてください)
【芽の調整の理由】土に埋まる部分に芽があると、そこから腐敗が進む原因になります。また、不要な芽を取り除くことで、植物のエネルギーを「発根」に集中させることができます。
残す芽は1つでも2つでも構いません。1つに絞った方が強い枝が出やすくなります。
③ 吸水(水揚げ)
カップなどに水を入れ、穂木を1~2時間程度浸けて吸水させます。
(穂木の半分くらいが水に浸かる程度の量)
【水揚げの重要性】カットした直後の導管内には気泡が入っていることがあり、うまく水を吸い上げられません。しっかり時間をかけて吸水させることで導管内の空気を抜き、細胞の隅々まで行き渡らせ、挿し木直後の水切れを防ぎます。吸水時間は長くなっても構いません。
挿し木作業
① 用土の準備
透明ポットの下から1~2cm程度、鹿沼土を入れます。
【鹿沼土について】鹿沼土は無菌で、通気性と保水性のバランスが良く、発根管理に最適な用土です。また、虫が湧きづらいため、室内管理にも最適です。
やや酸性が強く、発根後のイチジクには最適な土では無いので、春以降の植え替え時は鹿沼土を使う必要はありません。
② 穂木を挿す
穂木を①の鹿沼土に乗せます。根を早く発見できるように、少し端(ポットの側面寄り)に寄せて挿すのがおすすめです。
【芽について】穂木準備で取り除かなかった上の芽は必ず地上部に出してください。上の芽から葉が展開して将来的に枝になります。芽を埋めてしまっても大きな問題にならない場合が多いですが、芽から腐敗してしまうことがごく稀にあります。

③ 土を足す
鉢の上部1cmくらいまで鹿沼土を入れて完成させます。この時、穂木がやや斜め(80度~70度程度)に立つように調整します。(垂直でも大丈夫です)
【やや斜めにする理由】少し難しい話ですが、発根に必要なホルモン(オーキシン)は芽で作られ重力で真下に落ちていきます。垂直に挿すより80度程度に多少傾けた方が、発根箇所にホルモンを集めやすく、発根を促進しやすくなると考えています。垂直に挿しても問題なく発根します。

④ 初回水やり
下から流れ出るまでたっぷりと水を与えます。透明の水が出てくるようになるまで与えてください。
【微塵(みじん)を抜く】たっぷりと水を与えるのは、水分補給だけでなく、土に含まれる細かい粉(微塵)を洗い流すためです。微塵が残ると土の中で固まり、呼吸に必要な酸素の通り道を塞いでしまいます。
出来れば初回に、底から流れ出る水が透明になるまで、弱い水をかけ流してやると良いです。
その後の管理
・室内での管理期間
春まで(目安は霜が降りなくなる頃まで)
※室内の暖かさで休眠から目覚めさせて発根させます。休眠に入っていないイチジクは非常に寒さに弱いです。葉や根が出ても途中で屋外に出さないようにしてください。
【途中で外に出してはいけない理由】室内の気温で休眠から覚めて成長しています。休眠状態に入っていないイチジクは寒さにとても弱いので、霜の心配が無くなる時期までは室内で管理してください。(栽培2年目以降の冬は屋外で大丈夫です)
・置き場所
鉢皿を使い、日中は明るく暖かい室内に置きます。(サーキュレーターなどで空気が淀まないようにすると更に良いです)
【適温は20℃前後】休眠枝であっても、発根(カルス形成)にはある程度の温度が必要です。ただし、エアコンの風や直射日光が直接当たる場所は極度の乾燥を招くため避けてください。適温は20℃前後ですが、それより低温でも日数は延びますが発根します。
・発根確認前の水やり頻度
2~3日に一度程度を目安に与えます。土の表面が乾く前に、底から流れ出るまでたっぷりと与えてください。
【発根までは早めに水やり】根がない状態での給水は、切断面からの吸い上げのみに頼っています。一度でも完全に乾燥させると、細胞が死滅し発根しなくなります。「乾かさない」ことが最重要です。土の表面が乾燥し切る前に次の水やりをするのがベストです。発根後は根があることで吸水力が高まるので、発根前より間隔を開けても大丈夫です。(屋外に出すまでは5日に1回程度)
土に溜まった古い水を押し出す目的もあります。底のから流れ出る程度が目安です。余分な水は抜ける土なので、量が多すぎる分には問題ありません。(鉢皿に溜まった水は捨ててください)
・発根の目安
気温や環境によりますが、1ヶ月~4ヶ月程度で発根開始します。
置き場所の気温や穂木の個体差で前後します。
※途中で抜くと成功率が下がります。。
基本的には、先に葉が動き出し、その後発根します。
【抜いてはいけない理由】気になって抜いて確認したくなりますが、せっかく形成された微細なカルスや出始めの根が、抜いた摩擦で切れてしまいます。一度リセットされると再発根の確率は激減します。透明ポット越しに根が見えるまで我慢してください。2セット用意して片方を抜いて観察用にするやり方はオススメです。
・発根後の水やり
根が確認できたら、発根前より間隔を空け土の表面が乾いてからの水やりに切り替えます。
【発根後は水やりの間隔を空けられる理由】発根前は穂木下部の切り口からむき出しになった道管を使い水を吸収します。つまり、穂木の周囲が乾いてしまうと水が吸えません。そのため、土全体が乾く前、早め早めの潅水が必要です。
しかし、発根開始後は、根が伸びている範囲の水を吸収することが出来るため、少し間隔を空けて土の表面が乾いた頃などを目安にすると良いです。乾燥しているタイミングで、水を求めて根が伸びる性質があるので、ある程度間隔を空けてあげることをオススメしています。水やりの頻度が多すぎると、植物は「頑張って根を伸ばさなくても水が手に入る」と判断し、根の成長が停滞してしまうことがあります。
但し、急激な乾燥はダメージを与えてしまうので、土全体が乾くではなく、土の表面が乾くを目安にしてください。
さらに、土の表面が乾く過程で土壌内の空気が入れ替わるため、根が酸素を吸収しやすくなり、健全な成長を促すメリットもあります。
・屋外管理への移行
葉が動き出しても、霜の心配がなくなるまで屋外に出さないようにしてください。春暖かくなり、霜の心配が無くなったら屋外に出し、徐々に日陰から直射日光に慣らします。
【発根後すぐに屋外に出してはいけない理由】
イチジクは本来、寒さに強い植物です。本州以西であれば、ほとんどの地域で年間を通して屋外栽培が可能です。
しかし、当挿し木キットを使用して冬の間に室内で発根・展葉させた株を、急に屋外に出すと枯れてしまう可能性が非常に高いです。
その理由は、イチジクの「モード」の違いにあります。 本来、冬のイチジクは寒さに耐えるために「休眠モード」に入っています。しかし、暖かい室内で挿し木をすると、イチジクは春が来たと勘違いして目を覚まし、成長のための「活動モード」に切り替わります。
一度活動モードに入った(芽や根が動き出した)イチジクは、厳しい寒さに耐える力がありません。急激な温度変化は、植物にとって大きなショックとなります。
2年目以降の冬について 秋から冬へと自然に季節が変わる過程で、イチジクは自ら休眠の準備を整えます。しっかり休眠した状態であれば、最低気温が-10℃(ロンドボルドーはフランスイチジクの中でも耐寒性が強いので、成木になれば-15℃を耐える可能性もあります)を下回らない地域なら屋外での越冬が可能です。
【小ネタ】イチジクの休眠について。「冬」がなくても育つ?
多くの落葉樹(ブルーベリーやリンゴなど)は、冬の寒さを経験しないと春に芽吹くことができません。
これらの、植物が春に健やかに芽吹くためには、冬に葉を落としてじっくりと休む期間(低温要求時間)が欠かせません。この休眠期間が短すぎると、春を告げる『休眠打破』のスイッチがうまく入らず、芽吹きが遅れたり不揃いになったりする原因となります。
そのため、冬に暖かい室内で挿し木をしても、休眠から覚めず上手くいかないことがよくあります。
しかし、イチジクは少し違います。
1.イチジクは「環境適応型」の休眠
イチジクは、必ずしも「寒さ」を必要としません。イチジクが休眠するのは、寒さのためだけではなく、「生育に適さない環境から身を守るため」です。
- 温帯(日本など): 冬の寒さに耐えるために葉を落として休眠します。
- 熱帯・亜熱帯: 乾季(水が足りない時期)に葉を落として休眠し、雨季になると再び成長を始めます。
2. だから「冬の室内挿し木」が成功する
イチジクは、温度と水分さえ整えば「お、今は成長できる環境だな」と判断して活動を始めます。この「柔軟な休眠の仕組み」があるからこそ、真冬でも暖かい室内であれば、春と勘違いして元気に根や葉を出してくれるのです。
3. 世界中で栽培される理由
イチジクは世界の様々な地域で栽培されています。日本のように四季がある地域、はっきりとした冬がない地域、雨季と乾季がある地域、1年中暖かい地域など様々です。
冬がない地域では1年のうち長い期間収穫できたり、乾季がある地域ではそのリズムに合わせて休んだりと、イチジクは訪れた土地の環境に合わせて生き方を変えることができます。このタフさと柔軟さが、古来より世界中で栽培されている理由の一つでもあります。
補足: 専門的には、ブルーベリーなどが持つ「一定の寒さを経験しないと絶対に起きない休眠」を自発休眠と呼びますが、イチジクはこれが非常に浅い、あるいは環境次第でスキップできる性質を持っています。
それらの理由から、今回の挿し木キットにはブルーベリーではなくイチジクを採用しました。
イチジク・ロンドボルドーについて


フランスの黒イチジクです。とても甘く、天然のジャムを思わせるねっとりとした食感でイチジク好きからも大人気の品種です。果実は小さめですが、皮ごと食べられ、たくさんの果実がなりやすい豊産性も嬉しいです。
地植えはもちろん、冬に切り戻してコンパクトに仕立てることで鉢でも収穫を目指せます。
想定される質問
Q.屋外で管理はできないの?
A.途中で室内→屋外の管理場所変更は出来ませんが、最初から屋外管理であれば可能です。できるだけ凍らないよう暖かい場所で管理し、室内同様の水やりを続けてください。(発根は春に気温が上がり始めてからになります)
Q.肥料はいるの?
A.肥料は不要です。肥料分があると、スムーズな吸水を妨げますので、与えないようにしてください。
※挿し木中は不要です。発根後、春以降には必要になってきます。
春以降の栽培方法は、時期に合わせて随時更新していきます。
